脳卒中の感覚障害に対するリハビリテーション

前回は、

脳卒中後の運動における感覚情報の役割についてご説明いたしました

(脳卒中後に麻痺した手足を動かすには感覚情報が大切!を参照)。

前回の振り返りになりますが、

受容器で感知した感覚刺激を脳に伝え、意識的または無意識的に脳内に取り込み、感じた情報を認識し、正確な運動の調整に繋がることをお伝えしました。

運動の調整には、視覚、前庭覚、体性感覚が中心に関わります。

様々な感覚情報が脳内の連合野といわれる部位で情報が集まり整理され

脳がシステムとして連携して働くことで

運動と感覚が相互に機能しているのです。

今回は実際の臨床における

脳卒中の感覚障害に対するリハビリテーションを

お伝えします。

感覚障害に対する考え方

ところで、

リハビリと聞くと何をする印象をお持ちでしょうか?

多くの方が、

弱くなった体の部分に対してトレーニングを積み、強くする、

出来なくなったことに対して練習をして身につけていく

などと考えると思います。

確かに、弱くなった筋力や衰えた歩く能力に対しては

上記のようなリハビリの進め方は効果的であると思います。

しかし、脳卒中の方は感覚障害と運動麻痺も合併していることが多いため、           

感じにくい部位に対して刺激を沢山加えれば感じやすくなる

そう簡単にはいきません。

では、どのような考え方が必要でしょうか?

多種多様な感覚情報が様々な神経の通り道を通り、

大脳や小脳など脳の色々な部位で感じとるため、

どんな種類の感覚が障害を負っているのか

どんな種類の感覚情報が感知しやすいのか(利用しやすいか)

評価することが大切です。

そして、

感覚を認識して終わりではありません。

大事なことは、感覚の種類や量を調整して入力したときに

受け答えや動き方がどのように変わるのか、

反応を観察することが大切です。

感覚障害のリハビリの3つのポイント

いよいよ本題ですが、

では、実際に感覚障害に対しては

どのようにリハビリを進めていけば良いのでしょうか?

進め方には3つのポイントがあります。

一つ目は、体の障害部位に様々な種類の感覚情報を直接刺激するか

または、障害部位を通して感覚障害を負っていない部位に刺激を伝えるかです。

二つ目は、感覚情報を意識的に取り込むか、

無意識に取り込んでいる状態にするかです。

三つ目は、見る見ないかです。

順に説明していきましょう。

直接刺激か、間接刺激か!

一つ目について

感覚障害があったとしても脳内の損傷部位や周辺部位が機能する可能性があります。

刺激の違いによって脳内の認識する場所が違うため、

直接体に触るときに、

同じ刺激を加え続けるのではなく

摩る、掻く、押す、摘む、冷たさ、温かさ、痛み、振動など種類を変えて刺激を加えることが脳を活性化します。

では、

障害を負っていない部位を介して感覚を刺激するとはどのようなことでしょうか?

私たちの生活に身近でわかりやすい例として、道具を使うときの感じ方です。

例えば、箸を使って食べ物を食べるとき、食べ物に直接触れる部分は箸の先端であり、私たちの手ではありません。

当然、箸にセンサーはありませんが、食べ物の柔らかさ、形、重さなどを見なくても正確に認識します。

これは、箸から伝わる刺激が手に存在する受容器を刺激し、情報を脳で処理するからです。

つまり、障害を負っている手足を使いながら刺激を正常な手足、体幹、骨盤などに伝えていくことで、正確に感覚情報を捉えることができるのです。

意識的か、無意識的か!

二つ目について、

摩る、掻く、押す、摘む、温度、痛み、振動などを意識的に感じて情報を取り込む時は、大脳の頭頂葉(感覚野)で認識します。

感覚神経や感覚野が強く障害を負っていない場合は情報源として有効です。

では、無意識に取り込んでいる状態とはどんな状態でしょうか?

また、動作を例に考えてみましょう。

例えば、高い棚からお皿を右手で取ろうとします。

その時、瓶の形を確認し、右手を伸ばしたり、

瓶に向けて手を広げることは意識しますが、

体重を右脚へ移動し踏ん張ることや背筋を伸ばす、

左手を広げてバランスをとることは無意識に働いています。

リーチ課題が脚や背中の機能を高めているのです。

この時、移動の情報や踏ん張る圧情報は小脳前庭覚が感知し取り込んでいます。

大脳の脳梗塞や脳出血の場合、小脳や前庭覚は機能するため、動いた情報は無意識にしっかり取り込まれているのです。

体の部位に意識を向けるのではなく、作業課題に意識を向けることが大切です。

見るか、見ないか!

三つ目は、見て確認するか見ないかです。

目をつぶって作業をすることは非常に難しいですよね。

その時、私たしは一歩一歩ゆっくり地面を踏みしめて歩いたり、

手探りで道具や壁を探します。

つまり、体性感覚の情報を強めて、脳の感覚野を活性しているのです。

視覚情報を遮断することで、体性感覚や前庭覚を高めて調整しているのです。

手の機能を高めるのであれば、目隠しで物を識別するような課題が有効です。

バランス機能を高めるのであれば、座った状態や立った状態で

前後左右に揺れる課題や体を回転したり、足踏みなどが効果的です。

では、見ない方がリハビリには良いのか?

そんなことはありません。

私たちの行動や作業は、視覚情報を沢山利用しています。

物との距離や形、明るさなど目で確認した情報と

手足、体で動いて感じた情報が一致するように認識を再学習し

リハビリを進めていくことが大切です。

まとめ

脳卒中の感覚障害に対するリハビリテーションについてお伝えしました。

  • 感覚障害に対して刺激の種類を変えてみる。
  • 利用できる感覚を見極める
  • 直接刺激するか、間接的に刺激し認識する
  • 意識的に感じる課題、無意識的に感じ取る課題を設定する
  • 視覚情報を利用せずに体性感覚、前庭覚を高める
  • 視覚情報と他の感覚を一致させる課題を設定する

これらをポイントにしてリハビリの課題を設定してみると

効果的な動作に繋がります。